楠 慎也さん(東京都武蔵野市)
2016年におもちゃインストラクター、2017年おもちゃコンサルタントの資格を取得。電気通信会社に勤めながら、週末はおもちゃ学芸員やおもちゃコンサルタントとして活動。国立がん研究センター小児病棟でのボランティアをきっかけに病児の遊びの活動に関わる。スマイルデー、日本赤十字医療センター附属乳児院でのおもちゃの広場は立ち上げから参加。
クラフトの趣味が高じておもちゃの資格を取得
平日は電気通信会社の販売促進担当として働く楠慎也さん。立体のカードを作ったり、木の実で作品を作ったりと趣味のクラフト歴は20年以上。おもちゃの資格も、クラフトのイベント情報を検索するなかで出会いました。
「おもちゃの資格の講義は、保育や教育に関係のない世界で生きてきたため学ぶこと全てが新鮮で、発見の連続でした。今では成人した娘ともっとこういう遊びをしておけばよかったなぁと」
スマイルデーの工作コーナーでは、お母さんたちが木のスプーン作りに挑戦。自分だけの時間がなかなか持てないお母さんたちにはリフレッシュのひととき
おもちゃインストラクター取得後、知人に誘われて訪れたがん専門病院でのボランティアが病児に関わるきっかけでした。当初は社会勉強のひとつという気持ちでの参加だったといいます。
「病院の中に遊びを必要とする子どもたちがいて、親子の生活があり、子どもの育ちがあることを初めて知りました。とても深刻な状態にある子どもも、遊び始めると目を輝かせるんです。遊びの持つ力に心から驚かされました」
参加するたび子どもにパワーをもらっています
がん専門病院での活動を続ける傍ら、東京おもちゃ美術館のスマイルデーに初期から参加し、主に工作コーナーでお母さんたちの制作をサポート。また、2018年2月に始まった日本赤十字医療センター附属乳児院のおもちゃの広場では、月1回2時間、家族と離れて暮らさなければならない障害をもつ子どもたちと遊びの時間を過ごしています。
現在参加している日赤乳児院でのおもちゃの広場の様子。親元で暮らせない、病気や障害を持った子どもとのふれあい活動です
「意思の表現も難しい重い障害をもつ子どもたちとどうやって遊べばよいのか、初めはとても不安でした。ところが、たとえ寝たきりであっても、子どもたちは持っている力すべてを使って好奇心を発揮するんです。視線で反応したり、表情を変えたり。楽しさや笑いが子どもたちの力になっている様子を見て、参加するたびにこちらがパワーをもらっています」
少しずつ子どもたちとの距離を縮めて…
乳児院の子どもたちは、施設の職員以外の大人と出会うことが少ないため、最初はボランティアをたいへん怖がっていたそう。
「スマイルデーは親御さんを介した交流ですが、乳児院は1対1。子どもたちは職員さんから離れようとしないし、僕も驚かせたらどうしようと不安がいっぱいでしたが、徐々に慣れていきました。今では緊張せず、子どもにも緊張を与えず楽しく過ごせるようになっているかなぁ(笑)」
体が動かせない重い障害をもつ子どもたちにとって、手に触れたり、背中をさすったりといったスキンシップも楽しい遊び
病児と遊びに関わって大きく変わった人生
きれいな音やキラキラ光るおもちゃが乳児院の子どもには人気だそう。遊びの最後は、マットでブランコをしたり、みんなで歌を歌って楽しかった時間を終えます。
「自分が人前で歌を歌う日がくるなんて想像していませんでした(笑)。子どもとのふれあいを通して、相手の気持ちを汲み取ることが自然とできるようになりましたね。これは仕事場でも生かされています。子どもは究極のお客様。“今日は何をしてくれるの?”と待ち構えていますし、こちらが思ってもみない反応が返ってくる。予測できないようなおもちゃの使い方をすることもあるので驚きますが、子どもの発見に触れるのも楽しみのひとつです」
活動を初めて3年。人生が大きく変わり、彩り豊かな毎日を過ごしていると楠さん。ボランティアを通して得た共通の志をもつ仲間との出会いも、大きな財産になったと語ってくれました。
東京で単身赴任生活を送る楠さん。数年後に迎える定年の後は、家族が待つ金沢へ。ふるさとでの活動への期待も膨らんでいます